徒然

読む人に読んでほしいブログ

今日の夢

家に帰った私は、鞄も下ろさず、首元にはマフラーを巻いたまま、両立に掴んでいる2枚の紙を見つめていた。

1枚は今日学校から渡された模試の結果だ。行きたい大学の判定はCだ。後3日でサンタが舞い降りるこの時期にC判定は、もう受かる見込みはないと考えた方が良い。

そして、2枚目。明日に提出期限が迫っている指定校推薦の小論文用紙だ。用紙にはびっしりと自分にとってはこの上なく綺麗な書き方で文字が埋め尽くされている。指定校推薦で選んでいる学校の模試の判定はAだ。このまま何事もなければ合格をするだろう。

一度、両方の紙から視線を外し、窓の外を見つめた。外の道路では、サラリーマンや子どもが行き交っている。あのサラリーマンはもしかして関関同立の名門校を出て、会社も外資なんかに入り出世しているのだろうか。はたまた、あそこで友達とじゃんけんをしながら笑って走っている男の子は、もしかして運動神経が良くスポーツ推薦で名門に入るのかもしれない。

また手元の紙を見た。私には何か自分に期待をするような、中身は何一つなかった。自分の未来を想像してワクワクもできず、むしろ、大人になっても結婚もできず、正社員もクビになり駄目な大人になるんじゃないかと思った。そのためにも、大学は少しでも良いところに行って明るい未来を作るためには頑張らなければいけないとは思っている。でも、私にはこれまで何か真剣に頑張ってきた事がなく、行きたい大学に行く夢を見続ける力がそもそも備わっていなかった。

そして私は片方の紙をファイルに閉じて、鞄におさめ、明日に備えた。

 

ここまでが夢と現実どちらも同じだった。

どちらかの紙を入れたかによって私の将来は大きく転換をする。

 

夢の中の私は、鞄に指定校推薦の小論文を入れていた。そして自分の部屋を出ると既に大学生になっていた姉に遭遇をする。姉は高校生の時に、第一志望だった大学には行けなかった。初めから先生方には行けるよと言われていたが、指定校推薦の制度が急に姉の年代から変わり、姉のクラスでは指定校推薦枠が他のクラスよりも後に回ってくることが決まったのだ。そのため、姉のクラスに指定校推薦が回ってきた時には既に枠は埋まっており、あえなく断念。そして、一般受験で頑張るところまで頑張ると決め、第一志望ではないが自分で行きたい場所に実力で入っていった。

姉が私の顔を見て何かを察したのだろう。「私もな、後悔してるねん。もっと早くから勉強しておけば良かったって思ってる。」と自分の過去を振り向いて、悲しそうな、でも真面目な顔をして私にそう言った。

私はこの時初めて、他の人も挫折と後悔をする事を学んだ。ならば、今からもう一度一から勉強をして、来年は浪人してでも良い大学に行こうと決心ができた。心が決まった私はすぐさま家を出て、苦手な数学の参考書を会に行っていた。

 

一方、現実の私は、鞄には模試の結果を入れていた。もう一枚は明日のために見直した。文を見ながら、何度も何度も自問自答を繰り返した。この大学に入る理由を考え書いた紙を見ていると、いつの間にか自分で自分を洗脳していた。本当は理由なんかなく、あてつけで書いたはずの志望動機をいつしか本当に私がそう思っていると勘違いをし始めた。でも、これで良いと思った。私には勉強を続ける根性もないし、そもそも勉強のセンスもない。やり続けたところで見える結果が駄目なものと分かっているなら、やらない事も一つの選択肢だと、そう思っていた。それに仲の良かった友人は皆んな大学を既に決め解放感から遊んでいたので、私もそこに混じりたかった。そんな事に流されても良いのかと迷いもあったが、卒業まで間もないし、今楽しむことが大事だと自分にそう答えた。

そして、次の日私は先生の目も見る事もできず、小論文用紙を提出する事になった。

 

 

私は昨日仕事終わりの電車の中で、お気に入りのハリーポッターを読んでいた。ダンブルドアは悩むハリーにこう告げていた。

「自分が何者であるかを決めるのは、能力ではなく選択なんじゃよ」

この一言を見て、私はこれまでどんな選択をしてきたのかと半生を振り返った。すぐさま大学受験の選択の後悔をした。例えC判定でも、勉強を続ければ良かったと。あの頃の私は何もかもが怖かった。実力を出す事も、頑張る事も、落ちる事も、自分に悲しむ事も、周りから馬鹿にされる事も何もかもだ。だが、国家試験や公務員試験、色々な経験を積んだ今の私ならやれる、例え第一志望には行けなくても自分の実力で大学を選択できると自信があった。能力がなくても、能力をつける選択を今ならできる。

そして、何よりも私は挑戦をしなかった事に対して1番後悔をしていた。私は受験に挑戦して、落ちても、その失敗の結果すら欲しかったんだと今更気付く。当時の自分の能力に見合った楽な指定校推薦を選択しただけに、挑戦も失敗もどちらも得れなかった。失敗をするのは、挑戦をした者だけと、30代を見据えた今の私はよく知っていた。

だが今更、大学受験をやり直す時間はない。それこそ現実的に考え私が本当に進みたい医学部を目指すならあまりにも途方がなく、他の家庭を築きたいなどの夢を全て諦める事になる。また、後悔を払拭したくて理科の勉強を少しだけしたが、中学生レベルから全てやり直す必要があり断念をした。非常に悲しいがこれが現実だと受け入れ、今の自分が目指せる高みの場所が公務員だったのでそこで頑張ることを決意した。ダンブルドアの言葉の様に自分で何者になるか選択できる大人になれているだろうか、そんな思考を巡らせながら今日も進む。