徒然

読む人に読んでほしいブログ

フィルター越しの景色

 

上手だなんて言えないけど、自分にとっての一枚が撮れることはある。

 

彼の誕生日に、私は愛用するカメラを携え三重へと彼と共に向かった。

カメラを使い始めて半年、決して上手とは言えない写真ばかりが撮れる。あーでも無い、こーでも無いと言いながらも決定的な一枚を求め何度もシャッターを切った。

 

友人や彼をカメラに収めたことは無かったけども、記念だと思ったので、珍しく撮ろうと思った。

少し構図にはこだわりがあったので真冬の冷たい時期に、水の中に手を入れてもらった。何枚も撮ると、寒さに耐えられない彼が軽やかに怒りを露わにした。

私はとっておきの一枚が撮れず、満足できないままその場を離れた。

 

三重から大阪へと帰る電車の中、彼にカメラで撮れた写真を何枚も送った。

彼が寒さに耐えながらも撮らせてくれた写真は、大層気に入ってくれたようだ。

彼は、LINEのアイコンをその場でその写真へと切り替えていた。

 

 

そろそろ、彼と別れてから一つの季節が丸ごと過ぎようとしている。まだ、桜の香りがしていた頃に別れたはずだが、もう私の彼への愛は暑さで溶けきった。

LINEの友達リストから、連絡をしたい友達を探していると、あの寒さに耐える彼の写真が目に入ってきた。

彼の中では、まだあの写真がとっておきの一枚なんだと思った。

 

 

残念ながら、私は、世界から彼を切り取る時にうっとりと眺めた事はない。

でも、彼は私の視界を一部切り取った中に映る自分が好きなんだ。

このすれ違いを誰にもなにも言わずに、次は秋を越す。